或る舎弟の白昼夢

綺麗なものほど汚したくなるとは、誰が言った言葉だったか。



「黙っていれば、美形なのに」

いつだったか、仲間の誰かが酔った拍子にグラハムを評した言葉。
それを聞いた瞬間、シャフトはずっと感じていた違和感の正体をやっと掴んだ気がした。

蜂蜜色の金髪。
感情をそのまま映して輝く青い瞳。
よく動く柔らかそうな唇。

精悍――というよりは美しい、と言った方がしっくりとくるその容姿。

だというのに、グラハムからは"性的な気配がまったくしない"。
色気がない、というのともまた違う。
そう、穢れていなさすぎる―というべきか。
日頃やれキレイなねーちゃんがだとか、溜まってるだとか口にしてはいるが、そこそこ長い付き合いになった今も、未だにグラハムが女とよろしくやっているところなど見た事がない。

恋愛に興味がないのかと思えば、はにかみながら初恋は実の姉だったのだと幼い思い出を語る。

―そう、その整った容姿とクレイジーさに対して、どこか幼く、純粋すぎるのだ、このグラハムという破壊狂の男は。

キイ、と静かな音を立てて流れていた景色が止まる。

指示されていた場所はどこかのスラム街の路地裏のようで、不気味なくらい静かだった。
「……グラハムさん、つきましたよ」

「……グラハムさん?」

…寝ている。
返事がないのを不信に思い後部座席を振り返れば、グラハムが窓側にもたれかかるようにして眠っていた。

(だからシートベルトをしろって言ってるのに…)

起こすために手を伸ばそうとして、ふとその影がかった表情に目を奪われた。

薄暗いせいか、いつもより暗い蜂蜜色がなぜかひどく甘そうに見えた。
すう、と静かな寝息が聞こえるたび、その蜂蜜と同じ色の睫毛がゆるゆると揺れる。

「…………」

起こすため、肩にかけた手がぴたりと止まる。
触れたところからじわりと、得体の知れない熱が広がっていく気がした。
ごくり、と喉が鳴る。
―人気のない路地裏。―薄暗い車内。

いいようのない熱が全身をじりじりと焦がす。

―その美しい身体を縫い止めて、欲望をぶつける。

それはとても甘美な誘いの様に思われた。

思うさまあの細い腰を掴み、突き上げてやったら―

あのあどけない表情はどう歪むのだろう。
どんな声で鳴いて、どんな瞳をして俺を見るのだろうか。


やめろ、何を考えている。
頭の奥で誰かが叫んでいるが、知ったことか。
興奮か迷いか、震える指先がその白い肌に触れ――

「……ん、着いたのか?」

ようとしたところで、ぱかりと目の前の瞳が開いた。

「………っ?!わわわわわ、お、起きてたんすか!?」
「…いや、今起きたところだ。……―ん、どうした、何を嘆いている」
「………なんでも、ありません……いや聞かないでください…」


その頬を伝った一筋の水は、果たして冷や汗か涙だったか。
―塩辛いそれが蒸発するまでに、どうかこの熱がおさまりますように。
引き攣った笑顔を浮かべながら、シャフトは切に願った。


end.




アニメと友人の話だけでガッ!ときて書いたもの。
いろいろおかしいところあると思います。ごめんなさい…