「…坊ちゃん、いい加減その自虐的な自分の確かめ方やめてみない?」
真っ赤に腫れ上がった自分の頬をさすりながら、フランスは盛大に溜息をついた。
その原因の張本人である目の前のイギリスも、また同じように紅く頬を腫らしてしまっている。
ああ、せっかくの可愛い顔が台無しだ。
せっかく頬を染めるならもっと痛々しくない方法で染めてもらいたいものである。
たとえば夜、月明かりのベッドの上で、目を潤ませ…よからぬ妄想を走らせていると目の前のエメラルドグリーンが物騒な光を帯びた…気がした。すいません黙ります。
「……なんのことだ」
「…あー、わかってないならいいってか、わかりたくないならいいよ」
けどさぁ、と溜息をつくと腕の中のイギリスはぴくりと身じろいだ。
聡明な大英帝国サマは、きっと分かっているのだ。分かっていて、知らないフリをしている。
その理由は高すぎるプライドか、それとも不器用なその性格ゆえか。おそらくどちらもだろう。
そんなところをまた愛しいと思ってしまうのだから、自分でも病んでるとつくづく思う。
「それに付き合わされるお兄さんの身にもなってよね」
そりゃ、硝煙くさい、まるで精神だけになったような感覚の世界で、欲と殺意と…それからもしかしたら独占欲と―そんなむきだしの感情をやりとりしあうあの感覚は思い返しただけで背筋がゾクリとするような恍惚に満ちていた。
けれど、世界はもう争いをよしとする時代でもなければ、2人の関係もあの頃とはずいぶん変わってきている。
だというのに、愛を確かめ合うのに殴りあったり、余計なケンカをするなんてナンセンスだ。まったくもって、美しくない。
目の前の頭のカタいお坊ちゃんには分からないかもしれないが、愛の国を自負する俺にはよくわかる。
世間で言うところの「恋人」になったというのに、これでは何も変わらない。
自分からべたべた甘えてきてくれとは言わない。(というよりそんなイギリスは想像しただけでも気持ち悪いしそらおそろしい)
ただちょっと、ほんのすこーしでいい。
フランスの気持ちを、そしてイギリス自身の気持ちをみとめて、かんじて、頬を染めて微笑ってほしい。
「ね、もうちょっと、譲歩してくんない。」
「………」
ね、『イングランド』。
更に”彼”に近い名前で呼ぶと、イギリスがばっと真っ赤になった顔を上げた。
「言わせてよ、”I love
you”,くらい」
そんで、お前からもいって。
どんな小声でも、百歩譲って右ストレートがおまけについてきたってかまわないから。
「………Je
t'aime」
聴こえてきた返事は、
風にかきけされそうなくらい小さな音だったけれど、確かにフランスの鼓膜を揺らした。
FIN.